いつものように"EDITOR'S LETTER"をチェックしていたら、今月号で渡辺三津子編集長が退任されるということが書いてあった。
どうしよう・・・、と思って、いまに至る。
VOGUEには「EDITOR'S LETTER」というページがある。
いつも、VOGUEの編集長である渡辺三津子さんが書かれているページだ。
私はその愛読者の1人で、というより全読者はそのページを楽しみに、そして、頼りにしていたと思う。
特に奇をてらった内容ではなく、どちらかというと、実直で、穏やかで、そしていつも凛とした内容だった。
いまは節約生活で誌面を手に取ることができない状態が続いているが、WEB版でも「EDITOR'S LETTER」が取り上げられていたので、人気ページだったのは間違いないし、私はいつもそのページを読む時には、拝聴するという気持ちで、実際に耳を傾けるように、少しうつむいて読んでいた。
この未曾有の事態が起こったとき、私はとても混乱し、不安だった。
できることは、動揺しやすい自分を恥じながら、自分に負荷をかける情報をシャットダウンし、市井の人達の暮らしぶりをあてに、その真似をしてなんとか自分の生活を成り立たせるくらいだった。
その時も、VOGUEはいつも前を向いていた。
何が起こっても、ファッションからの思考を自問し続け、挑戦をやめず、絶えず全方位でありながら、一心に突き進むさまを読者に示していた。
その姿は、とても勇敢で、エレガントで、知的だった。
たくさんの大声が渦を巻く中で、毅然とVOGUEはVOGUEとして成すべきことを成していた。
私はとても励まされ、毎月、VOGUEはどうするのか、何を特集するのかを、混乱の時代の中でとても頼りにしていたし、節約生活で誌面購入を断念するまで、毎月の楽しみでもあり、最新号を胸膨らませて買ってきてはソファに座り、時に難しくて深く考えなければならない問題について、付け焼き刃ながら意見をもったり、時にそれは手が届かないながら、夜の航海にふと見える灯台のように私を照らす、ハイファッションの世界を眺めた。
その頃、私はVOGUEを読み始めてもう何年も経っているのに、ようやく、この雑誌の編集長は一体どういう方で、どこからやってきたんだろう?と、思いはじめた。
どうしてこの混乱期に、このような姿勢を保てるんだろう。
どうして、私達読者から片時も目を離さないアンテナを持ち続けているんだろう?
なぜ、それが可能なんだろう。
そう思っていた矢先に、手のひらの宝物。という、これまた大好きなコーナーに、渡辺編集長が登場した。
そして、ご自身の名前、三津子と同じ名を持っている、ゲランの名香「MITSOUKO」を宝物として挙げた。
とても見事に鮮やかに、私の中で渡辺編集長と香水ミツコが紐づけられた瞬間だった。
琥珀色の香水瓶の美しい写真を眺めながら、私にとっても非常に特別な存在である、この香水と同じ名を持つ渡辺三津子編集長のことを、私の頭は多分一生忘れないだろうな、とぼんやり思った。
私はこの先もVOGUEの読者であり続けるし、新しい編集長が示す新たなVOGUEの探求もまた、見つめ続けるつもりだ。
けれど、とても遠い手の届かない存在だろうな、と気後れしてしまう、ファッションの最先端にいる渡辺編集長が、毎号毎号、届け続けてくれた手紙が、常に私達読者と二人三脚であり続け、そして謙虚でありながらも、本当の知性とは何か、本当の強さとはどれほどしなやかなものであるのか示し続けていたこと。
時に寄り添い、時に鼓舞し、時に迷い、また前を向く姿を見せ続けてくれた手紙の中の言葉に、いつも救われていたことを、いつも心強かったことを、冷静さを取り戻させてくれていたこと、乱暴な気持ちを鎮めてくださったこと、そのほか、書ききれないたくさんの瞬間と共にいてくださったことを、往くさきの光を、道を、見せてくれていたことを、悪筆ながらここに記しておきます。
私達読者は、確かに、”編集長からの手紙”を受け取っていました。
ありがとうございました。
どうか、お元気で。
媒体越しに再会できる日を心待ちにしています。
渡辺編集長の向かう、新たな地平に、幸多からんことを!
読者より。
追記:コーナー名を間違えておりましたので訂正しました。
大変失礼しました。 ごめんなさい。(2021/12/28/23:38)