Japanese Summer Maniac Pops
ー 睡蓮の開く音がする月夜 第3夜 ー
ようこそ輝く時間へ / 松任谷由美 (Yumi Matsutoya)
アルバム PEARL PIERCE 収録
松任谷由美を語るときに、アルバム「パール・ピアス」以前、「パール・ピアス」以降で区分けが行われる。
というのを、昔読んだことがあるんですが、例によって、私はこの意見は支持しません(笑)。
私の、アルバム「PEARL PIERCE」観ですが。
タイトルトラックの「真珠のピアス」の中で歌われている、女性の復讐と”されている”、あまりにも強いイメージが先行して、なんだかアルバム「PEARL PIERCE」の話を探しても、大声で言われてる話は、その復讐の話ばっかりで、
「女って怖い! 」
「それを歌う松任谷由美も怖い! 」
という、
「小学生男子かよ! 」
ということしかなくって、
私はいつも少し不機嫌になって、その情報から離れていました。
(それ以降、「PEARL PIERCE」についての話題は見てないので、あくまでも私がサーチした当時の話です。)
音楽をどう聴こうが、それはその人の自由なので、それはそれで、その感想はアリなんですけれど。
でも楽曲「真珠のピアス」で歌われてるのは、
「本命でなかった彼女からのちょっとした意地悪」
なので、
そのミニマムだけれど、
大人の女性が持つ軽い棘や、
スパイスの効いた世界への視線、
大人になってもできないこと、
少し孤独な気持ち、
というキーワードで埋め尽くされている、
初夏から真夏を通り過ぎて、
最後は季節があまり明らかにされていないという余韻、
に満ちたアルバムに収録されているタイトルトラックなんだから、
こと大きく「女の復讐」として取り上げるのはどうか、
と私は思います。
この話って、怖い怖いって言われていますけれど。
本命になれなかった主人公が、別れの挨拶に、ちょっと彩りを加えてみた、どこかソリティア(ひとり遊び)味が強いんです。
そして、主人公は、そういうちょっと意地悪な遊びをしながら、
相手の男が、仮にこの意地悪で後で一瞬、ドキッとするような気まずい空気に包まれても、
うまく交わすんだろうし、
本命の彼女もそこを察した上で、
自分を選んだ男と新しい生活に向かうだろうことが、
わかりすぎるほどわかっているので、
結局、ああ、私は、うまくいった2人のエピソードになっちゃったな・・・、
という部分で、傷ついているんですよね。
アルバム「PEARL PIERCE」全体に流れているテーマは、「大人になったと思っている、少女性も魔性も、意地悪さも持った、等身大の女性像の、日常風景から始まる物語群」
なので、
受け取り方の個人差のズレがあったとしても、
アルバム全体を流れるテーマを大きく逸脱して、
曲鑑賞するのはどうなんでしょう。
まあそれすらも、私個人の鑑賞の範囲なんですが。
実は、私は初めて松任谷由美を聴いたのが、この「PEARL PIERCE」とその次のアルバムの「REINCARNATION」でした。
細かい経緯は忘れてしまいましたが、それまでは松任谷由実は、F Mでエアチェックするに留めていたんですけれど、どうしてもちゃんと聴きたくて、という流れだったはずです。
で、なんの予備知識もないまま、手に取ったこの2枚のアルバムの最初に聴いた方が「PEARL PIERCE」で、その第一曲目に収録されているのが「ようこそ輝く時間へ」でした。
私が思う、松任谷由美のものすごさって、
「誰もが言語化したくてもできなかったことを、洗練された言葉にして、歌詞世界に落とし込む」
という才能なので、
(どこかの誰かが、下手の横好きで、同じようなことをずっとやってるけれど、どこにも行けてませんね。ええ、私のことです。どこかに行きたくてやってるわけではありませんが。)、
「夜空に浮かんだスタジアム
カプセルに乗ってのぞいたら
歓声が舞い上がる
ああこのまま 時間を忘れて
世界を舞い跳ぶ ビームになりたい」
(「ようこそ輝く時間へ」 松任谷由美 より)
を聴いて、当時の私は度肝を抜かれました。
いまでもそうなんですが。
私は夏は嫌いだけれど、夏の夕方から夜にかけてはとても好きで、気持ちがどこか高揚して、浮遊感に包まれる季節の肌触りを、この楽曲で松任谷由実は表現しているんですよね。
本当に驚きましたし、いま聴き返しても、やはり驚きがあります。
そして、前後してしまいましたが、
冒頭の歌詞。
「夜風が涼しくなる頃は
哀しい子供に戻るから
連れて行って 遊園地
ネオンの星座も色褪せて
バターの香りが流れ来る
黄昏の遊園地」
(「ようこそ輝く時間へ」 松任谷由美 より)
初っ端からこれです。
ものすごいですよね。感性の鋭さが!
そして、こういう情景を日本語で歌ったのは、松任谷由実が最初だったのではないかと私は予測しています。
そしてそして、
「大人になったら宿題は
なくなるものだと思ってた
行かないで 夏休み」
(「ようこそ輝く時間へ」 松任谷由美 より)
という、
もう余計なことを私が書く必要のない、
凄まじいまでに鋭く繊細な感性の歌詞で、
この楽曲はできています。
ふだん暮らしていて、私は「PEARL PIERCE」を聴くときは聴くし、聴かないときは全く聴きません。
ただ、この時期の季節感、照りつける陽射しの強さ、夕立や雲の動き、それらが茜色に染まって夜が始まる、夏の情景が、この楽曲とともに脳に焼きついているので、夏が来ると、どうしても一回は「ようこそ輝く時間へ」が聴きたくなり、その後、結局はアルバム全体を聴いてしまうというのが、私にとっての「PEARL PIERCE」です。
多感な時期に、アルバム「PEARL PIERCE」を聴いて、私はこう思いました。
「大人になっても、いまの気持ちを持っていていいんだ。」
それから随分と時間が経ってしまいましたが、
私は、当時のその気持ちを失うことなく、相変わらずのよくわからない日々を過ごしています。
そして、同じ気持ちの人が世界中にたくさんいることを、いまでは知っています。
それは、とても幸せなことなのだ、ということを、わかりすぎるほどわかった上で・・・。
それではまた、日本時間の明日の夜7時に、お会いしましょう。
タイトル副題 河出文庫 少年アリス 長野まゆみ(Mayumi Nagano) より、冒頭第1節を引用
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