Japanese Summer Maniac Pops
ー 睡蓮の開く音がする月夜 第2夜 ー
赤い靴のバレリーナ / 松田聖子 (seiko matsuda)
アルバム ユートピア 収録
松田聖子に関して、かいつまんだ情報を書くと、日本のトップアイドルからトップスターになった、日本のポップスターです。
日本にもポップスターはたくさんいるんですけれど、山口百恵というポップスターが綺羅星の如く現れ、伝説となったあまりにも短い活動の後、惜しまれながら結婚と共に引退し、その後、まるで約束されていたかのように、世に現れたのが松田聖子でした。
詳しくはWikipediaをご覧ください。
ウィキペディア 松田聖子
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%BE%E7%94%B0%E8%81%96%E5%AD%90
アルバム「ユートピア」
松田聖子は、ありとあらゆる当時のトップアイドルの常識をくつがえし、快進撃を続けていたのですけれど。
彼女のアイドル活動期の特色として、当時の国内の実力派ミュージシャンたちが、松田聖子というアイドルのアルバムに多数参加していた、というものがあります。
なので、楽曲的に、日本の歌謡曲としての良さを追求していたごく初期のアルバムと、
その後の名曲揃いのアルバムは、クレジットにある通り、
はっぴいえんどの松本隆がほとんどの作詞を担当し、
同じくはっぴいえんど、のちに「A LONG VACATION」を発表する大滝詠一、
同じくはっぴいえんど、そしてのちにYMOの細野晴臣、
松任谷正隆、松任谷由美の別名義である「呉田軽穂」、
甲斐バンドの甲斐祥弘、
チューリップの財津和夫、来生たかお、などなど、
そうそうたるメンバーが作家陣に加わり、
その楽曲の多くを、
名編曲家である大村雅朗が担当していたという、
ただの一過性に消費されるアルバムでは、決してありませんでした。
私見ながら、この時期、すでにトップアイドルであり、ポップスターであった松田聖子に課せられてた音楽的役割は、
「かわいくて誰もが眩しく思う、主人公の女の子の気持ちを歌う」
から、
「どこかにきっといる、聴いたものがみな、心に思い浮かべることができる」、
「誰かにとって、とても大切な女性の気持ちを歌う」
に、切り替わっていった頃だったと思います。
松田聖子の夏の名曲は、この名盤「ユートピア」に同じく収録されている、以前、当ブログでも紹介した「マイアミ午前5時」を私はまず第一に挙げますが。
ポップスとして非常に巧みで、強い支持を受けるのは、おそらく「渚のバルコニー」でしょう。
この楽曲で、彼女はヘアスタイルだけではなく、ファッションリーダーにまでなるきっかけとなった名曲ですので、このセレクトでまず間違いないと思います。
ですが、今回はManiacという区分けをしていますので、あまりメジャーのくくりでは光が当たっていない、名曲「赤い靴のバレリーナ」を私は挙げます。
聴いていただければお分かりの通り、ギターと鍵盤の旋律が美しいスロウな楽曲で、作詞は当然、「松本隆」(Takashi Matsumoto) 、作曲 「甲斐よしひろ」(Yoshihiro Kai)、編曲 「大村雅朗」(Masaaki Omura)が楽曲制作をしています。
この曲に出てくる主人公は、普段は少しおとなしい、あまり活発な「私」ではありません。
そして、とても繊細な気持ちと気分を持ちながら、人生というもので、花の季節が短いことをはっきり自覚している、現実の苦さも知っている主人公です。
その「私」は、冒頭の歌詞で、こう心のうちを明かします。
「前髪1㎜ 切りすぎた午後
あなたに逢うのが ちょっぴり こわい
一番 綺麗な時の私を
あなたの心に 焼きつけたいから」
(赤い靴のバレリーナ / 松田聖子 より)
つまり、みなさんよくご存知の通り、前髪が1㎜ 違うだけで、自分の顔の印象が変わってしまうことを、この主人公もよくわかっているんですね。
そして、”一番 綺麗な時の私”を見てもらいたいし、覚えておいて欲しいと続けます。
私が一番綺麗なのは、いまのこの時期だけなのだ、という寂しいことを思ったり、それはちょっと自惚だったり、相手との恋愛が自分を美しくしてくれたことを知っている、少しの自信でもある気持ちを打ち明けます。
いきなり冒頭の歌詞でこれです!
みなさん、これが松田聖子です!
これが、松本隆です!
続けます。
「明るくなったね 人に言われて
誰かのせいよと 謎めきたいの」
(赤い靴のバレリーナ / 松田聖子 より)
からわかる通り、この「私」は、恋愛で変わったんですね。
そして楽曲の最後まで貫かれる繊細さは、「私」が、非常に「ものおもい」の時間を持っている、心の中の方が雄弁な人物であることを表現しています。
そして、この「私」の相手はどんな人物かというと、
2番の歌詞にある
「海から あなたに電話をかけて
いますぐ来てよ、と わがまま言おう
車を飛ばして 来てくれるかな
それとも やさしく 叱られるかしら」
(赤い靴のバレリーナ / 松田聖子 より)
という、
「私」の繊細さを受け止めてくれる、優しい気持ちをもつ、大人の、恋愛的にも成熟した男性だと想像できます。
「赤い靴のバレリーナ」という曲の中で、ときめきもあり、輝きもあるけれど、2人の関係が地に足のついたものであることも示唆されていると、私は解釈しています。
さて、この、かわいらしいわがままを「私」は実行したんでしょうか。
それは、
「見知らぬ電車で 見知らぬ海へ
見知らぬ駅まで 切符を買ったわ」
(赤い靴のバレリーナ / 松田聖子 より)
とだけ、描かれており、その結末はリスナーにゆだねられています。
私は、「赤い靴のバレリーナ」を初めて聴いた時から、同じ結末を想像しているのですが。
それは、夏の繊細さのひと幕を、この楽曲で表現してみせた、名アーティスト達に敬意を表し、
あえて、言葉にしないでおこうと思います。
それではまた、日本時間の明日の夜7時に、お会いしましょう。
タイトル副題 河出文庫 少年アリス 長野まゆみ(Mayumi Nagano) より、冒頭第1節を引用
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