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(「中森明菜 ラッカーマスターサウンド」
「Akina Nakamori Lacquer Master Sound 」
でサーチするとこの盤が出ます。)
どちらも、2022ラッカーマスターサウンドMIXのライブ盤となります。
会場はYOMIURI LAND EAST.
ライブ盤ですが、歌唱中に歓声は入っておらず、中森明菜の当時の生歌唱がどれほどものすごいかがよくわかります。
北ウイング / 中森明菜(Akina Nakamori)
作詞 康珍化 (Kan Chinfa)
注:weblioの表記に倣うものとする
作曲 ・ 編曲 林哲司 (Tetsuji Hayasi)
中森明菜の楽曲にはいくつか特徴があります。
そのひとつに「ドラマティック」という要素があるのは、どなたも異論はないだろうと思います。
「北ウイング」は、タイトルを明菜さん本人がつけた、とWikipediaの「北ウイング」のページにあるので、当時の明菜さんご自身も、自分の歌唱曲にはドラマの要素がある自覚があったのではないかと、私は考えています。
「北ウイング」の歌詞から楽曲を解釈してみると。
この楽曲は「運命」に引き寄せられた恋人達のクライマックスシーンまでを描いていますが、私はいつも「北ウイング」に出てくる主人公2人のラストシーンはハッピーエンドだったのか、そうではなかったのかに思いを巡らせるのを、「北ウイング」という楽曲の余韻として楽しんでいます。
素晴らしい楽曲を元にした、ドラマや映画や小説や漫画が創られることがあります。
ですが私は、「北ウイング」の場合、楽曲自体が登場人物も、小道具も、舞台も、セリフも、主人公の想いも、全て過不足なく描かれている、とてつもなく完成形に近い世界を聴衆の頭の中に描き出すので、これ以上は必要ないと思っています。
明菜さんのような、美しく聡明で、強さを秘めた情熱を持つ女性が、「すべてを捨てて」飛び込む相手は、おそらく、運命的で強力な、逆らえないほどのもので結びついている存在なのでしょう。
よく、人は恋に落ちると、どうにも抵抗できない引力を相手に感じたり、まるで遠い昔からこの相手こそが自分の運命であると、とても大きな存在から決定されていたかのような、惹かれ方をする体験を持ちます。
そしてその多くは恋の終わりには、あんなにまで鮮烈だった、あの感情すべては錯覚だったのだろうか、と、胸の中が空っぽになってしまいます。
ただ唯一の例外、相手が「本当に運命の相手である場合」をのぞいて。
私は、明菜さんの歌唱を聴いて何度も頭の中に描画される「北ウイング」の物語が、ハッピーエンドに向かわない結末であるとは、どうしても思えません。
それは歌詞の中で語られているように、
いちどは あきらめた人心の区切りの Teardrops都会の灯り ちいさくなる空の上で 見降ろす(中略)Love Is The Mystery翼ひろげて光る海を 超えるわすこし不安よ日付けが塗り替えてゆく苦しいだけのきのうをあなたが住む 霧の街が雲の下に 待つのね(後略)(北ウイング / 中森明菜Akina Nakamori作詞 康珍化 (Kan Chinfa)歌詞提供 Uta-Net 様
2人が離ればなれの道を選んだのは、どういう理由や状況だったのかは、リスナーの想像にゆだねられていますが。
上記の部分で描写されているように、
一度は相手をあきらめ別の道を生きた主人公が、自分の選択を「苦しいだけのきのう」と胸の内で告白するほど、2人の愛にはたくさんの試練がもうすでにあった、と示唆されています。
そして主人公が最終的に選んだのは、すべてを捨てて彼のもとへ行くことでした。
その選択へ向かうまでに、一度別の道を生きることにしたわけですから、
燃え上がっているだけの恋愛の末路にある、
ラストシーンから始まった現実に、あっけなく2人は押しつぶされ、
あれほど焦がれた想いが、いまとなっては胸の中でひらひらと舞い落ちる、1枚のそらぞらしい紙に記された、とるに足りないただの事実の記録になってしまう道を歩むとは、
ちょっと思えないんですよね。
私は、この楽曲に出てくる2人は、年齢のいった、大人の2人だとイメージしています。
なので、運命に翻弄されながらも、2人は自分たちの想いをもっと落ち着いた現実的なものとして、断固として胸に持っていたのではないでしょうか。
だからこそ、歌詞の中で主人公が洩らす「すこし不安よ」という本音が、滑走路をふちどる無数のライトと、宝石の街を超えながら闇を往く、夜間飛行とオーバーラップし、この歌詞を聴いた瞬間、リスナーの心もまた、瞬時に離陸するのだと、私はとらえています。
さて、この北ウイングというのは、Wikiによると、日本にある成田国際空港の第一ターミナルの北部分の呼び名、なんだそうです。
そして、楽曲に出てくる便は
日本航空の成田発アンカレッジ経由ロンドン・ヒースロー国際空港行きのJL401便ではないかWikipedia 北ウイングより
と言われているそうです。
便がはっきり特定されていないこと、クリエイターチームや明菜さんもそのことにあえて言及しないところが、「北ウイング」という楽曲を愛するリスナーに対し、非常に繊細な心づかいをしてくださる、とても素敵な方々だなと胸が温かくなりました。
そうかもしれないけれど、そうではないかもしれない。
そうではないかもしれないけれど、そうかもしれない。
あえて言葉にされていない、運命の恋人達の結末もまた、聴いた人の数だけ、その胸にドラマティックな2人の運命を、2023年のいまでも描き続けている。
ーーーごくごく少なめに言って、
中森明菜が歌唱した永遠の名曲、それが「北ウイング」だと。
ずっと私は、そう思っています。
それでは、明日の夜7時に、またお会いしましょう。