日曜日なので穏やかな内容を書いています。
あじフライ定食を食べている隣の席で、ゴージャスな若い女性二人がわいわいやっていました。
私は自分のビールとあじフライ定食とただぼさーっとしていたい時間だったので、ぼんやりとわいわいしている夜のお店を楽しんでいました。
なんとなく、お隣の席から、そのピンクトルマリンちゃんが楽しそうにお話ししている声をとぎれとぎれにキャッチしながら、いい子なんだな、と明るく穏やかな気持ちになっていました。
一緒にいるアールヌーボーちゃんは主に聞き役で、とても二人一緒にいる時間を楽しんでいました。
そのお店は思ったより広くて、全員ただ食事をしている所で女の子率が高い、そういうお店だったので、私は徐々にリラックスしていくのに、そう時間はかかりませんでした。
先に頼んだビールを飲んで、ただ一人きりになってお店の週末の夜の中を漂っていました。
ふとピンクトルマリンちゃんの口調が変わったことに気がついて、ジロジロ顔を向けるわけにもいかず、ぼんやりと「どうしたのかな?」と思っていました。
あじフライ定食はお味噌汁と冷や奴とフライは2枚、添え合わせの千切りは最近の風潮で多めで、あじフライ定食にちゃんとウスターソースが一緒に置かれたので、ああ、お腹空いた、と私は食べていました。
だんだんピンクトルマリンちゃんの口調が少し早くなり、
と言い始めました。
アールヌーボーちゃんはただ黙っていました。
???と思い始め、どうしたんだろう? と少し隣の会話に集中すると、ピンクトルマリンちゃんはアールヌーボーちゃんが綺麗でうらやましいと繰り返し言っていました。
二人の雰囲気は、ちゃんと友人同士のルールを守っている”ほんわか”だったので、おそらく友人同士のルールをはみ出した後の、修正のご飯ではないのはわかりました。
どうしてだろう? と思いながら、あじフライのソースをさらに追加して左手のご飯を口に運んでいたら、二人はそろそろという感じで、ちゃんとお会計はテーブルで互いの分をアールヌーボーちゃんにキャリアで渡していました。
立ち上がると、やっぱりゴージャスな二人で、目の端だけでも「いいな」と思う二人だったんですが、なぜか立ち上がってもピンクトルマリンちゃんがあまりにもアールヌーボーちゃんをうらやましがるので、私はそっと顔をあげてピンクトルマリンちゃんを見上げたんですね。
綺麗な女の子でした。
ピンクトルマリンちゃんが隣の席の私が少し動く気配に一瞬気がそれた瞬間、アールヌーボーちゃんはお会計に歩き出し、ピンクトルマリンちゃんはその後をす、と付いていきました。
店員さんが残されたテーブルの上を片付けに来たとき、初めて隣の席を見たんですが、きちんと片してあり、おしぼりの空袋だけがそっと置かれていました。
ああ、食事が得意な子達なんだな、と再びほんわかした気持ちで、私はビールに目を戻しました。
アールヌーボーちゃんは、もし彼女をターゲットにするなら、全員が「いいな」と思う女性でした。
顔は見ていないけれど、その会話の受け方、ピンクトルマリンちゃんのことを友人としているWARMな所、長い髪の先の流れ方、カジュアルだったけれどちゃんと週末の夜のボトムで、決してピンクトルマリンちゃんと被らないようにしているのも、二人がとても仲が良くて、街で連れ立っているのが当たり前だと思えるし、余計な慌て方をしないのも、ああ、こういう子なんだな、と私は感じました。
アールヌーボーちゃんは、日射しが斜め下に入る白い壁に這う蔦を思わせる人で、蔦の色は秋始めの真っ赤ではなく、初冬の少し茶色がかった、あの繊細でした。
ピンクトルマリンちゃんは、とても派手でお洒落な色、黒が似合っていて、自分の色にしていました。
スタイルも、彼女をターゲットにするなら、ピンクトルマリンちゃんが困るくらい、他の友人達に「鋭さと夜の海に映った夜景のような子なんだ。」と自慢するような人でした。
じゃあ一体、ピンクトルマリンちゃんは何がうらやましったのかな、と思えば、おそらく「美人」の先がよく分からなくなっていたのだと思うんですね。
一晩経って、隣の席でたまたまご飯を食べていた彼女達が、私の記憶のフィクションになっていく過程で、ふと、好みのタイプを目指せばいいのではないだろうか、と考えました。
「雰囲気美人」という言葉があるけれど、これは雰囲気のある人、という最上の誉め言葉と相手へのリスペクトを形容する言葉を、破壊した結果の言葉です。
正確には、雰囲気がある人=美人です。
これは、いくら「雰囲気美人」と羨ましがりが言い張っても、揺るがない事実です。
結局、好みのタイプというものは、顔と雰囲気なんです。
顔はいくらでも寄せていける、ただ寄せて自分を変えずにいればいいんです。
メイクとヘアと服だけです。
じゃあ雰囲気は? というと、もう美人なんだから、ただ単に雰囲気を弦楽奏にするか、海辺の午後のヨットハーバーで見ていた晴れた土曜日にするか、アンティーク家具に漂っている決して踏み込めない毅然、朝の空気の冷たさにするか、まあそういう色々を、単に着替えるだけなんですね。
雰囲気って着替えられるんですよ。
雰囲気を纏うって言うでしょう?
あなたの雰囲気なんだから、あなたがその雰囲気をただ考えるだけなんです。
おそらくアールヌーボーちゃんは、私はこういう女性になっていたい。という明確なイメージがあるのでしょう。
おそらくピントルマリンちゃんは、いまの自分の美人っぷりとゴージャスっぷりに飽きてきたんでしょう。
で、アールヌーボーちゃんに、「どうしてアールヌーボーちゃんは○○○なの? 」って言いたいのに、○○○が出てこないんです。
出てこない理由は、飽きちゃったからそれ以上考える必要が無いからです。
きっとピンクトルマリンちゃんは、そのうち、「あ、こういうのいいな。」というものに、嗜好が変わっていくんでしょうね。
それが世にいう「好みのタイプ」ということを、「好みのタイプって次第に変わる」ということも、きっと彼女は知ってるんだと思います。
いつかお二人が、昨日のご飯でとりとめのない話をしていたことも忘れちゃって、夜の、彼女たちに一番ふさわしい透明な光にゆったりと揺らいでいる時間が、私達には普通でした。と何度目かの雰囲気を着替えるときに、「あ、見て、私これ好きだった。」とパートナーさんに嬉しそうに話すんでしょうね。
うまく言えてないな、これなんだろう? と、繰り返し違う言葉を言いながら、ピンクトルマリンちゃんが席を立つときに、隣の席でこっちを見上げたよくわからない奴が、
「えーと、あなたはすごくゴージャスなんですが、気が付いてはいますよね? 今日の服もあなたに凄く合ってますし。」
と言おうかどうしようか瞬時に迷って、ああ、やっぱり止めて良かったと、朝になって心の底から思っている私が、どうかピンクトルマリンさんの記憶に残っていませんように。
それでは素敵な日曜日をお過ごしください。
毎年になりますが、年末年始休暇を今年も頂きます。
私の大好きな、しっかりとした寒さが私の街にも来ているので、今年は家の中のことをしながら、わりと外に出かけると思います。
みなさんも、自分が一番好きだと思うやり方で、ゆったりとお過ごしください。